ブラウンのダイヤの製品が目立つようになってかなりの時間が経ちます。新聞、雑誌、テレビ等での広告を目にすることも多くなりました。今まであまり見向きされなかったブラウンのダイヤが広く使われるようになったことは、ジュエリー材料としてのダイヤの間口を広げたという意味で業界にとって意味がありました。
しかし、ブラウンダイヤが質の高いダイヤモンドであるかのような、セールストークが一部で行われていることは残念な限りです。
ブラウンは他のファンシーカラーとは違った評価をされています。一般にファンシーカラーは色が濃くなるほど評価は高くなりますが、ブラウンは色が濃くなればなるほど評価(価格)が下がります。ブラウンダイヤの製品が数多くつくられるようになったため、ブラウンダイヤの価格は数年前の2〜5倍に上昇しましたが、ホワイトに比べる価格差は依然大きいです。
ブラウンダイヤの最大の生産地はオーストラリアです。ピンクの原石と同じ鉱山から産出しますがピンクに比べてブラウンが圧倒的に多く産出されます。オーストラリアの原石はダイヤの中でも硬いことで有名です。安いブラウンの原石は研磨に手間をかけませんから完璧に磨かれたブラウンの石は少ないと言うことになります。
個人的にブラウンダイヤで美しいと感じる石はごく僅かです。赤色を含んだテリのあるチョコレートブラウンの石は確かに綺麗ですからもっと評価されてもいいかな、という気がしますが、ブラウンのダイヤが一般的に高い評価を得ることはないでしょう。
ブラウンで最も評価が高いのはTTLB(TopTopLightBrown)と呼ばれるホワイトに限りなく近い淡いブラウンです。PtやWGの白い地金の枠に留めるとホワイトに見えます。今ではTTLC(TopTopLightCapeイエローゴールドの枠に留めるとホワイトに見えます)よりも評価が高くなっていまして、こんなところにもイエローよりもホワイトの製品が主流になっている宝飾品の世界的傾向が反映されています。
濃いブラウンのメレーも単価は安いのですが、安いゆえにきちんと仕分けされたロットは見かけませんので、色が同じで、メイクがしっかりしていて、研磨状態の良いものを揃えるのは容易ではありません。また、石落ちした時に同じような石を探すことも大変難しいことを承知しておく方がよいでしょう。
GIAが合成ダイヤモンドのグレーディングを始めることになった、という記事には驚かされました。合成ダイヤモンド販売業者が天然ダイヤモンド業者との公正な競争を確保するために合成ダイヤモンドのグレーディングも実施すべきであるとGIAに申し入れ、拒否すれば訴訟も辞さないと言う姿勢にGIAが折れて、合成ダイヤモンドのグレーディング・レポートを出すことになったそうです。訴訟社会の米国の一面を垣間見るとともに、合成ダイヤモンドが宝飾用として使われ始めたのだな、という感想を持ちました。
しかし、1個石の場合は鑑別すれば、天然か合成かの結果がすぐ出ます。合成ダイヤの鑑定書ができたといっても、合成であることを明記した上でのレポートですから、合成を天然と誤る可能性は殆どありません。問題はメレーです。
従来、合成ダイヤモンドのメレーは費用的に合わないと言われていました。ダイヤはサイズが小さくなるに従って、1個に占める研磨工賃の割合が大きくなりますから、合成ダイヤの原石が天然ダイヤの原石より安いとしても、メレー1個の価格にそれ程反映されないので、サンプル的につくることはあっても大量に作る意味がないというのがその理由でした。
では、価格ではない別のメリットのために合成ダイヤメレーが作られるとしたら…… 今回発見された合成ダイヤメレーはイエロー、それもカナリーと一般に呼ばれるファンシービビッド・イエローカラーのメレーです。
複数個で使用されるファンシーカラーのメレーは色合わせが一番のポイントです。色が濃くなればなるほど色相の違いが強調されて目立つからです。放射線処理のメレーは色合いは安定していますが天然の色とは微妙に違っていて、処理石であると容易に判別がつきます。
安定したカナリーカラーのメレーはジュエリー製作の材料としては魅力的な素材だと思います。合成と知って安易に使うだろうか、と考えて、処理ダイヤを処理と表示せず単にブルーダイヤと表示して恥じない業界の現状を見れば、広く出回る危険性があるのではないかと、あえて事実を公開します。セットされたメレーは合成か天然の鑑別は殆ど不能、ルースの状態でも、1/50ct以下のサイズは正しい鑑別結果を出すことのできない可能性がある、というのが鑑別機関の見解です。
シングルカットはテーブルとクラウン、パビリオンの上下部に各8面のメーン・ファセットをもつ、17面から成るカットを言います。エイト・カットと呼ばれることもあります。わが国ではあまり使用されることがない、ダイヤモンドのカットとしては最も簡単なカットですが、メレーの代表的カットのひとつとしてヨーロッパではよく使用されます。
一番多く使用しているのはスイスの宝飾時計メーカーです。文字盤に埋め込まれているメレーは殆どシングルカットといっても良いくらいです。文字盤の石留めは「やに浸け」して留めて仕上げるという宝飾品一般の方法はとれないので、自動石留め機で石留めを行います。職人が手で留めるのと違って大きさの融通はあまり利きません。直径の許容範囲は0.05mm位です。主に使われるサイズは1/100ctから1/200ct(直径1.3〜1mmくらい)です。自動石留め機にはファセット数の少ないシングルカットが適しているという事情もあるようです。
価格はラウンドブリリアント(シングルカットに対してフルカットと呼ばれます)のメレーに比べて2,3割は安いですが、高級宝飾時計向きのトップのメレーについてはフルカットより高く取引されることもあります。一時、宝飾時計の生産が急増した際、インドではフルカットのメレーをシングルカットに磨り直して輸出することも行われました。
輝きという点では17面のシングルカットは58面のフルカットより劣るのですが、小さいメレーでは、シングルカットの方が勝ってみえる、という考え方もあります。これは石が小さくなると、ひとつひとつのファセットが小さくなるため、肉眼で見た時に、面の多いフルカットはファジー(ぼんやりとした)な印象になってしまうからです。見比べてみると、違った外観ではありますが、シングルカットの方がシャープな輝きに見える感じもします。特にピンクやインテンスイエローといったファンシーカラーでは色のキレが断然勝ります。残念ながらファンシーカラーのシングルカットメレーはあまり目にしませんが。
ヨーロッパのジュエリーにしばしばシングルカットメレーが使用されるのは、単にコストの問題だけではない気がします。シングルカットメレーをジュエリー製作材料の選択肢のひとつと考えてみてはいかがでしょうか。
昔に比べるとメレーのカットは随分良くなりました。1個石でいうエクセレントカットのメレー(ハート・キューのでるようなもの)も珍しくなくなっています。オートマティックの機械がメレーの研磨にも導入されたことがカットの向上に寄与しています。しかし、昔と同じ手磨りの歩留まりを重視したカッティングも無くなってはいません。
手磨りのメレーは品質の低いものが中心です。原石がねじれていたり、形がいびつだったりして、端正なカットに仕上げにくいという事情もありますが、原石から取れる石目を大きくするためにカットを犠牲にすることが時として行われます。この代表的カットがスケ石とゴロ石です。
スケ石というのは薄い原石からなるべく大きい石を取る際に起きる、浅い石のことです。ガードルの反射像がテーブルの中に丸く写って魚の目のように見えるところからフィッシュ・アイとも呼ばれています。スケ石に入った光線は反射することなくパビリオンから洩れるので輝きが劣ります。
ゴロ石というのは深い石です。1個取りの原石ではパビリオンを深く取ったり、ガードルを厚く取ったり、クラウンを高くしたりして分留まりをよくすることがありますが、ゴロ石に入った光線は不適当な角度で反射して上のほうに返ってこないので、テーブルの中が黒く見える、ダークセンターになります。普通のカットの中にこの石が混じっていると回りから浮き上がって見え、全体のバランスが悪い感じになります。また、キューレットが出てしまったりします。
複数の石が使用されるメレーにおいては品質(カラー、クラリティー、カット)が揃っていることが大きなポイントになります。たとえクラリティーの高い石でもカットがまちまちでは製品に造った時に美しくありません。ハートアンドキューピッドのメレーが尊重されるのはハート・キューが出るからではなくて、カットが揃っていて石を留めた時にバランスが良いからです。
スケ石やゴロ石は1〜2ピースだから差し支えないではなくて、1〜2ピースでも美しさを損ねる、このことに留意したいと思います。
ダイヤモンドにはさまざまな色があります。GIAのカラーグレードではホワイトからイエロー(DカラーからZカラー)が基本の色ですが、これ以外にもピンク、ブルー、オレンジ、グリーン、バイオレット、パープル、ブラウン、ブラック等の色が存在して、色の濃いものはファンシーカラーに分類されます。当然メレーにも同じようにさまざまな色が存在します。
ファンシーカラーで最も知られているのがピンクです。このところのピンクダイヤの値上りは激しく、世界的な需要の増加と最大の生産地アーガイル鉱山を持つリオティントが資源の枯渇を理由に大幅な値上げを実行し始めたこともあってここ2,3年で約2倍になりました。リオティントはさらに値上げを進めると言明していますから更にピンクが高くなるのは必至の状況です。ピンクメレーも上がり続け、1ct当り卸値で100万円を超えるものも出てきています。
ファンシーカラーとしての市場価格でいうとブルーはピンクよりも高いのですが、生産量がピンクよりも更に少ないために天然のブルーメレーにはあまりお目にかかりません。代わってトリーテッドブルーのメレーをよく見かけます。これは放射線処理を施してブルーに染めたメレーです。処理して色を改変したメレーとしてはブルーの他にグリーン、オレンジ、イエロー、パープル等があります。天然のファンシーカラーとして市場価値の低いブラウンのダイヤを処理して製造するのが一般的ですが、淡いブルー(アイスブルーと呼ばれています)はホワイトのメレーを処理してつくります。
処理されたメレーは材料のメレーに処理の手間賃を加えた価格で流通していますから
天然のファンシーカラーのように高いものではありません。当然需要の大きいピンクの処理も試みられています。しかし、常にきれいなピンク色に染める技術が確立されていないようで、トリーテッドピンクはブルーと違って、市場に多く出回る状態にはなっていません。
資源としてのダイヤモンドが枯渇化に向かいつつある現在、ダイヤを人工的に好ましい色に改変することは認めざるを得ないと思いますが、きちんと情報開示がなされるべきだと考えます。「ブルーダイヤは安いものなのでしょ?」と消費者から問われて驚いた経験があります。単なる「ブルーダイヤ」という表示での販売は慎むべきであると思います。
製品の検品でメレーの欠けが見つかったら、石留めの際に欠けたのだろうと、職人の責任と決め付けるのが一般的反応ではないかと思います。鏨(たがね)が滑ってダイヤを欠いてしまう事がたまにあることも事実です。しかし、まともな職人が自分で石を欠いたことも気付かずに納品することがままあるとは考えられませんから、弱い立場の職人が覚えがないのに責任を問われる例が少なくないのではないかと私は思っております。ダイヤは信じられないほど簡単に割れる例があるのです。
ダイヤモンドは硬度10、世界で最も硬い物質です。硬いから欠けたり、割れたりしないかというと、そんなことはありません。硬度というのは異なった物質をこすり合わせた時にどちらにキズがつくかということで、割れにくい、欠けにくいということではないからです。
ダイヤにはクリベージ(劈開性)というある方向に力を加えると、結晶面に沿って割れるという性質があって、さほど大きな力でなくてダイヤは簡単に割れます。世界で最大のカリナンダイヤモンドはこの方法で分割されました。依頼を受けたヨーセフ・アッシャーは1度失敗して2度目に成功した瞬間気絶したと伝えられていますから、クリベージの方向を探して正しく打撃を与えるのはかなり難しい作業と思われます。しかし、偶然にクリベージの方向に力がかかるというのはありうる話で、かつてインドで買い付けたメレーが到着した時、その中の1ピースが真二つに割れていたことがありました。偶然クリベージの方向に何らかの力が加わったものでしょう。
ダイヤはまたガードルが薄く磨かれていますから、ガードルを強くぶつけるとガードルは欠けます。指輪をずっとはめていますと知らず知らずのうちに、ドアやテーブルや床などに指輪をぶつけていますので、ガードルにダメージを受けているケースは多いのです。リフォーム時にメレーをはずしてみると何割ものメレーが欠けていることも珍しくありません。
超音波洗浄器やメッキなどでダイヤが破損するケースもあります。度々起こることではありませんがダイヤが割れっこないと思っていると大きなトラブルに見舞われる恐れがありますから、加工や洗浄など手を加えたときには必ずメレーの状態をチェックする習慣をつけることと、消費者にダイヤは欠けたり、割れたりすることがありえることをきちんと説明する姿勢が必要ではないでしょうか。
昔のメレーのビジネスは今から思うと大雑把というか、もっと牧歌的だったなと思います。注文も50パー(1/50ct)から100パー(1/100ct)の「そこそこの品質」を10ct位とか、トッピンの10パー(1/10ct)を5ctとか、という感じでしたから。
それが段々細かくなり、50パー1ct、30パー2ct、20パー1ctという風になって、次には個数単位になり、今ではミリ単位の個数単位の注文が増えています。1.3mmを15個、1.5mmを20個、1.7mmを8個というように。
メレーの大きさはシーブ、又はシフトと呼ぶ道具で分別します。円筒形のケースに丸くて薄い金属に小さな穴が沢山開けられた板をセットして、メレーを入れて振って、どの板で落ちて、どの板で留まるかで見分けるのですが、この小さい穴の大きさは0.5mm刻みになっています。(1枚の板にあけられた穴の大きさは同じです)
-8+7(8番で落ちて7番で留まる)、-6.5+5.5(6.5番で落ちて、5.5番で留まる)という風に表します。因みに-8+7は1/30ct、-6.5+5.5は1/50ctとされています。また、直径と重さの関係で言うと1.3mmが100パー、1.7mmが50パー、2mmが30パー、3mmが10パーというのが常識なのですが、これが怪しくなりつつあります。
もともと品質が下がるに従って平均石目は大きくなる傾向がありましたが、近年メレーの品質の幅が広がりすぎたため、トップのメレーとボトムのメレーの重量差は3割以上にもなっています。50パーを例に取りますと、トップのメレーは-6.5+6番でも平均値は0.02ctを割る場合があります。直径で言うと1.75mmくらいが0.02ctちょうどです。一方、低い品質では-6+5番でも0.02ctを上回ります。1.6mmかそれ以下が0.02ctちょうどです。
低い品質のメレーにフラットな石目の軽い石がないわけではないのですが、なるべく石目を残したいことと、低品質ゆえに細かいところまできれいに磨かないことで、平均重量はどうしても大きくなります。
企画を立てる場合には使用するメレーの品質によってデザイン図のメレーの大きさも変えていかなければいけないということです。
修理やリフォームで数十年前のジュエリーを目にする機会がよくあります。ダイヤのカッティング技術は進んだな、という感想を持つことが多いです。クラリティーの良い石でもカットはイマイチというものが殆どですから。ではメレーの品質が平均的に昔より高くなっているかというと、これが違うんですね。
これは1個石にも、メレーにも言えることですが、カッティング技術は進歩しましたが使用される原石の範囲は随分広くなっています。30年前に使われていたメレーのトップとボトムの価格差はせいせい2,3倍だったと思います。今では4,50倍にはなっているのではないでしょうか。昔のメレーには真っ白い石(キズが多くてテリのない)、真っ黒い石(トリートではないカーボンだらけの)、濃い茶色の石等はあまり見かけませんでした。
合成ダイヤにシェアを奪われた天然工業用ダイヤが宝飾用に転用されるようになったことと、ジュエリーの大衆化がメレー品質の多様化を招きました。現在ではカラーもクラリティもサイズも様々なメレーが市場に存在します。どのようなメレーを使ってジュエリーを製作するか、どのような品質のメレーが使われたジュエリーを取り扱うかは宝石商にとって重要な問題であると思うのですが、意外と関心は高くないように思われます。
メレーの品質を等級分けすることをアソートまたはアソートメントと言い、1個石のグレーディングとは区別しています。1個石のグレーディングではGIA方式というスタンダードが存在しますが、メレーのアソートにはスタンダードが存在しません。業界のためにも、消費者のためにもメレーのアソートメントスタンダードを確立する必要があると個人的には思っておりますが、その件に関しては別の機会に譲ることにしてメレーの品質を見極める上で重要だと思われるポイントを述べます。メレーの品質ってなんだろう?
色、キズ、カットこれはメレーの品質を見る時に重要な要素です。と同時にメレーは複数で使われることが普通ですから使われている品質にバラツキが少ないということも重要です。真珠のネックレスで言う「連相」に共通する部分ですね。ここが1個石のグレーディングと大きく違うところです。色も、キズも、カットもいいメレーの中に低い品質のメレーが少し混じっているロットよりも、ある範囲内で揃ったメレーのロットの方が品質は上であるというのが私の考えです。
普段なにげなく使われているメレー、この言葉がどこから来たかご存知でしょうか?「メレー」は「ごちゃごちゃに混ぜ合わせる」という意味の「メレ」というフランス語が語源で、色々なサイズのダイヤモンド小粒石が混ざりあったロットを意味する言葉でした。「いろいろなものを混ぜる」というフランス語には「メランジェ」という言葉もあって、ここから出た「メランジ」という言葉がメレーよりも大きいサイズの混合ロットに使われていました。つまり、0.25ct以下の混合ロットが「メレー」、0.25ct以上の混合ロットが「メランジ」と呼ばれていたのです。ですから「メランジのメレー」という言い方は本来の意味からするとおかしいのですね。
われわれの感覚からすると区切りが0.25ctというのは半端な数字のように思えますが、米国で25セントコイン(クオーター)があるように4分法に慣れ親しんだ欧米人には違和感のない区切りだったのでしょう。「メランジ」は今も「いろいろなサイズが混ざった」という意味で使われていますが、メレーという言葉はいつの間にか「混ざった」という意味を失って、ダイヤモンド小粒石全体を呼ぶ名称として使われるようになりました。ジュエリーの材料として主に複数石で使用される小粒カットダイヤモンドの総称が「メレー」です。
ヨーロッパでは区切りの問題もあって0.25ct以下を「メレー」と呼ぶ人もまだいるのですが、メレーの大半は今ではインドで研磨されていますし、ジュエリーの消費量から言ってもとアジア全体の量が欧米を上回る現状では0.25ctで線を引く必要性はないでしょう。複数石より1個で使われることが多く、エンゲージリングとしての使用量が増えている0.2ct(1/5ct)の石はメレーからはずして、1/6ct以下を「メレー」とするのが妥当です。1/5ctのロットは0.18ctから0.23ctというのが世界的な分類法ですから、細かく言うと「メレー」は0.18ct以下ということになります。ただ、研磨国であるインドでは1/40ctから1/15ct(直径1.8mmから2.7mm)までをメレーと呼んでいます。メレーの中にまたメレーがあるというややこしい状況なのですが、現状では名称を変えて欲しい、とも言えないのでこれは広義のメレー(カットダイヤモンド小粒材料石)の中に狭義のメレー(1/40ctから1/15ctのサイズ)があると理解するしかないようです。
長年ダイヤモンド、それもメレーを中心に仕事をしてきました。ダイヤの1個石に比べるとメレーに対する関心はいまひとつです。メレーはジュエリーをつくる材料として欠かせないものなのですが。メレーのことを「くず石」などと言われると悲しくなってしまいます。メレーってこれでなかなか奥深いのですよ。世界経済の動きにリンクしていたり、科学技術の進歩と密接な関係を持っていたりするのです。またメレーをよく知ることはジュエリーを製作する上でとっても大切です。どういうサイズのメレーを使うか、どういう留め方をするかで完成品の感じは大きく変わってきます。石合わせがきちんと出来ていないと石落ちや石割れの原因になります。どういうメレーが調達可能か、メレーがどういうクラス分けをされていてどういう価格体系になっているかを知らないと有利な材料選びは出来ません。なぜこんなメレーを使った製品企画を立てるのだろう? なぜこんな枠つくりをするのだろう? なぜこんな石留めをするのだろう? と疑問を感じたことが何度もあります。メレーについてもう少し知っていればよりレベルの高いジュエリーがより安くできるのになあ。ということでメレーに関する情報や感じることなどを文章にしてみることにしました。21世紀型の新しいジュエリーづくりに役に立てていただければ嬉しいな、と考えています。
まず、価格の話です。メレーの価格はここ2,3年かなり高くなっています。シンジケートの方針などと解釈してはいけません。デビアス(DTCというべきですね)はとうにメレーの価格コントロールを放棄しています。需要が減少から増加に反転したのです。日本のバブルが崩壊して日本の宝飾市場は3分の1近くまで落ち込んでいるのですから、日本の落ち込みをカバーして余りある市場が誕生した、つまり、インドと中国です。特にインドはIT産業の伸展で宝飾市場は既に日本を上回ったといわれています(インドの宝石はウラの販売が多いので正式な統計がないのですが)。インド国内の販売量が増え、輸出用のメレーが足りなくなって価格が上がった、簡単に言えばそんな状況です。